第31章 幸せ
言葉が出てこないまま呆然としていたが、次第と視界がぼやけてきて、頬を伝って涙が流れ落ちて行った。それは風に乗ってパラパラと散ってゆく。
隣を走る兵長の目は、全くの無と言って良いほど何の感情も映していなかった。だけどそれは、兵長が何も感じていないということではない。きっと兵長も私と同じで、大きすぎる悲しみに打ちひしがれて、まさに茫然自失の状態だったのだろう。
そこで私は、ハッと気がついた。
「エレンッ!!エレンはどうなったんですかっ?!」
エレンはペトラ達と一緒にいたのだ。彼女らが全員殺されたということは…まさかエレンも…
「アイツは無事だ。今は気を失っているので、後方の荷馬車に乗せている」
「そう…ですか」
私はホッと胸をなでおろした。
エレンが無事だったことは本当に良かった。だけど…、今はそれだけを素直に喜ぶことはできない。失ったものがあまりにも大きすぎて…。
その後私たちは、壁内に戻るまで一言も話すことなく無言のままだった。涙は次から次へと溢れ出てきて、どうしても止めることができなかった。兵長はそんな私の隣を黙ったまま走り続けて、ずっと側にいてくれたのだった。