第30章 ささやかな代償
テキパキと処置を進めていくリヴァイの顔を、ラウラはチラリと見る。
「あの、兵長…、先ほども止血をしてくださってありがとうございました」
だがそれに対してリヴァイは何も言わず、もくもくと手を動かし続けるだけだった。
新しい包帯を巻き終わったところで、リヴァイがラウラの右手を握ったまま、ジロリと睨んできた。その眼光の鋭さに、思わずラウラは硬直する。
「絵が描けなくなったらどうするんだ。…限度を考えろ」
そう言った途端、険しかった目元がしゅん緩められた。
普段のリヴァイからは想像もつかないほど弱々しい表情を唐突に見せられて、ラウラの胸はドキンと大きく跳ね上がった。慌てて顔をそらす。
そんなラウラを見て、リヴァイがフッと小さく鼻を鳴らすのが聞こえた。
ポンと頭に手が置かれたかと思ったら、そのままグッと押されてラウラはベッドの上で前のめりに倒れ込んでしまった。
「わっ!?」
突然の事に驚きながらも、慌てて身体を起こしたラウラだったが、すでにリヴァイは部屋の扉に向かって歩き始めていた。
「ガキはさっさと寝ろ」
パタンと静かに扉が閉められて、来た時と同じような唐突さでリヴァイは帰っていった。
ラウラはまだドキドキと鼓動する胸を押さえて、いつまでもドアを見つめていた。包帯の巻かれた手が、何故だか燃えるように熱く感じるのだった。