第30章 ささやかな代償
長時間馬に乗っていて疲れたらしいエレンが、はあ、とため息をついたので、私はポンとその背中を軽く叩いた。
「もうちょっとで終わりだから、頑張ろう」
するとエレンはへにゃと笑って、私を見つめてきた。
「あの、ラウラさん、いつも気にかけてくださってありがとうございます。俺、本当に嬉しいです」
ペコリと頭を下げてくるエレン。
「俺が監視対象だからってことは十分理解しています。でも、いつも優しく声をかけてもらって、本当に感謝してるんです。…すごく厚かましいんですけど、何だか姉さんができたような気持ちがするんです」
ストレートなエレンの言葉に、私は一瞬呆気にとられてしまった。そして何故か、初めてエレンを見かけた時の光景を唐突に思い出した。
あれは超大型巨人の再襲撃が起こる日の朝、調査兵団が壁外調査に出発しようとしていた時。沿道でエレンは、リヴァイ兵長の姿を見てはしゃいでいた。
あぁ、そうだ…あの時のエレンの姿は、弟のエリクと全く同じだった。英雄の姿を羨望の眼差しで見つめる、あの熱を帯びた瞳も何もかもが。そうか…そうだった…。