第22章 息抜き
注文は兵長がしてくれて、私は勧められるがまま次々と運ばれてくる料理を平らげていった。
「…てめぇ、結構食うじゃねぇか」
「はっ…す、すみません!今日は一日歩き回ったので、お腹が空いていて…」
「別に怒っちゃいねぇ。その細い身体によく入るものだと関心していただけだ」
店員さんが次の料理を運んできてくれ、兵長はそれをずいずいと私の方に押しやってくる。
「…あの、兵長は召し上がらないのですか?」
私には次から次へと料理を勧めてくるのに、兵長は飲み物を飲むばかりで、一切食事には手を付けようとしないのだ。
思えば、兵長が何かを食べているのを見たことは一度も無かった。
「俺は人前ではメシを食わねえ。メシを食っている間、人間は無防備になるものだからな。そんな時に誰かに襲われたらひとたまりもねぇ」
「……!」
私は頬張っていた食べ物を慌てて飲み込もうとした。その理屈から言うと、私は今無防備な状態ではないか。
だけど兵長はそんな私の考えを見透かすように、言葉を続ける。
「俺が見ててやるから安心して食え。悪かったな、変なことを言って」
そう言って頬杖をついた兵長の顔は、とても穏やかだった。
…一体今日の兵長はどうしたのだろう。見たことのない顔が次々に飛び出してくる。
結局兵長は飲み物以外の物は口にすることなく、ただ私が食べるところを満足そうな表情で眺めていたのだった。