第20章 阿呆
去っていく背中を見送ってから、未だにそこに突っ立っている私の方に兵長は目を向ける。
「お前はいつまで泣いてんだ。また俺のクラバットをダメにしたいのか?」
「め、滅相もございません!」
私は、次々と溢れてくる涙を止めようと、必死で目をこすった。
だけど、こすればこするほど涙はとめどなく溢れてきて、次々と頬を伝っていくのだった。
「お前、自分が嫌われていると思っていたのか?」
唐突に核心を突くような言葉を投げかけられて、私はびっくりした。なぜ兵長がそれを?
もしかしたら兵長も、ナナバさんたちと同じように気づいていたのかな?私が同期の中で浮いてしまっていたことを。
「はい…今の今まで、ずっとそう思っていました」
私はコクリと頷いた。本当に、なんてバカバカしい勘違いをしていたんだろう。自意識過剰だったんだ。みんなは私のことを嫌ってなんかいなかった。
むしろ勝手に壁を作って距離を置いていたのは、私の方だったんだ。
「そうか。…お前は阿呆だな。さすがの俺もびっくりしたぜ」
そう言った兵長の口調はどことなくおどけたような雰囲気だったから、私は胸が温かくなる。兵長なりに気を使ってくれているのかもしれない。
「はい、私は本当に阿呆でした」
そう言った途端、何だか長年胸の中でわだかまっていたモノが消え去っていくような気がして、私は先程から止まらない涙をまたボロボロとこぼした。
でもこれは悲しい涙じゃなくて、嬉しい涙なんだ。自然と口元に笑みが浮かんできてしまう。きっと今の自分の顔は、とてつもなくヘンテコなものになっているだろう。
泣きながら笑う私の隣で、兵長は何も言わずに一緒にいてくれたのだった。