第9章 つんでれアクアマリン【A×O】
足音を忍ばせて近付き、ドアに耳を寄せた瞬間、
不意にドアが大きく開いて、翔ちゃんが出てきて…
その奥のスタイリングチェアーに
半裸の智くんが…
「嘘だろっ…」
呆然と立ち尽くす俺に、翔ちゃんが、
「俺、智と付き合ってるんだ」
当然の顔をしてそう言った。
「あ…そっ、そうなんだ…」
気まずさを隠そうと無理やり作った笑顔で、
やっとそう答えると、気怠そうだった智くんが、俺を見て笑った…
少し馬鹿にしたように…口元だけで笑ったんだ。
「わああああああっ//////」
叫びながら飛び起きると、そこは自宅のベッドの上…
なんだ…
夢だったのか…
夢にしたって縁起でもない(´Д`)
スタイリングチェアーの上で、
乱れ、乱され、
何とも言えない色香を放っていた智くんが、リアルに思い出されて……
「違う!違う!そんな筈ない!」
全く。
俺の想像力も侮れないぜ。
智くんのあられもない姿を追い出そうと、頭をブンブン振って立ち上がった。
ちょっと惜しい気もしたけどね(^^;
その日の夜。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました!」
営業時間が終わった頃、店に入ると、翔ちゃんがいつもの爽やかスマイル2割増しで俺を迎えてくれた。
「この間は、ホントに…」
そう頭を下げようとすると、若手敏腕カリスマ美容師はさりげなく、俺の背中に手を添えて奥へと促した。
「あの日に、謝罪の言葉はちゃんと受け取ったから。もう、そんなことしないで。
今日はお得意様の予約でしょ?」
小声でそう言って、俺の顔を覗き込んでウインクした翔ちゃんは、
いつも通り、べらぼうに男前だった。
個室に落ち着いて、翔ちゃんと髪型について相談した。
新しい役どころや、俺のイメージする雰囲気を伝えた。
「そうだね〜、後ろはすっきり短めにしてみる〜?色も明るめに変えた方がいいのかな〜?」
「そう!俺もそう思ってたんだよ!流石カリスマ美容師♪」
「揶揄ってんの〜?じゃ、最初にシャンプーするから…待っててね」