第2章 10月と君と秋風と another story
「ごめん。遅れる。駅前で待ってて」
このメッセージが送られてきてから、私はかれこれ30分以上ベンチに座り続けている。あんなに読むのを楽しみにしていた小説も、ページだけが進んでいって、全く内容が頭に入ってこない。もうそろそろ着いてもおかしくないん頃なのではと思い、ぱっと駅の入り口を見る。見覚えのある姿が、構内に消えて行った。
-中地君、私に気付かなかったんだ-
本を閉じて立ち上がる。中地君はなおも私に気付かない様子で、時刻表を眺めている。確か、見方がよく分からないと、言っていたっけ。
「中地君?」
中地君じゃないはずはないと思ったが、それでも一応確かめるように声をけた。振り返った中地君はやっぱり中地君で、それは私を安心させた。
10月になったのに彼らしいというか、中地君は半袖だった。
「えー佐久間さん、寒いのー?」と聞かれたので、…いや、まわり見てみてよ中地君。おもいっきり半袖なの、君と売店のおばさんくらいだよ?
「それは、中地君の方がおかしいんだよ」
と、私は笑ってしまった。