第6章 松田が安室を冷やかしに来た話
「ご注文をお伺いします」
「ホットコーヒー。あんたは?」
「……アイスティーを」
あとアップルパイ、と絞り出すように注文を伝えながら、私はどうしてこうなったと頭を抱えた。
テーブル越しにニヤつきながら座っているのは顔見知り。そう、ただの顔見知り程度の男性だ。横には笑っているはずなのに、なぜか笑ってるようには見えない安室さんが立って伝票にオーダーを書き込んでいる。「少々お待ちください」とまた極上の笑顔を残して去っていった安室さんを見てそっと息をついた。
やっぱり目は笑っていなかったのだけれど。
「真冬にアイスティーなんてよく飲めるな」
「熱いのが苦手なだけです。すぐに飲みたいから」
「ふぅん」
話は振ってくるものの、目の前に座っている男はさも興味なさげに呟いた。実に退屈そうだが、言わせてもらえばこっちだって退屈だ。そもそも入店のタイミングが同じだっただけで、一緒に座るよう誘われなければ一人でお茶をしながら勉強しようと思ってたのに。
「どういうつもりなんですか松田刑事」
恨めしげな雰囲気が伝わってしまっただろうか。鼻で笑って一蹴されてしまう。一応警察官を目指してはいるが、こういう刑事にはなりたくないと、今、心に固く誓った。