第9章 雪辱
(コイツ…!まだこんな力を残していやがったのか…!)
いや、これは元々由来の力だ。元は一体どれだけ……
・・・・・・・
『俺の本当の能力を忘れてんじゃあねえぜ!』
「!」
大きな氷の右側面から、不意打ちのようにウォンテッドが現れ出て、承太郎の腕に手を伸ばした。
「フンッ」
しかし承太郎は、スタープラチナが誇る素早さで難なくかわして、呪いを回避した。
『何ィッ!?』
由来を抱えたままとは思えないくらいの身のこなし。
しかも、瀕死状態である彼女に負担がかからないよう、必要最小限の動きになるように計算している。
「やはり他人任せにするだけの事はあるな。鈍いぜ」
そして氷点下に近いほどの極寒世界のせいか、自分もそうだが相手の動きが明らかに遅くなっている。
寒さとは、人間の生命活動の循環を鈍らせて、最悪の場合、命の時間を止める力がある。
この"状況下"(コンディション)は、互いの命にも関わるほど深刻だ。
これは敵との勝負である以上に、時間との勝負。
(何より、今の"コイツ"(由来)じゃ、この寒さに耐えられる体力は残っちゃいねえ。それこそ、てめー自身の能力でまた死んじまったら、笑い話にもならねえ)
抱っこしている腕越しに、由来が寒さで震えているのを感じる。これ以上はマズイ。
(本来ならコイツを痛めつけた分のツケを払わせてえところだ。が、すぐに決着をつけさせてもらうぜ…!)
承太郎はすぐ様ウォンテッドの本体の方の頭に狙いを定める。
再び叩き込んで、またDISCを無理やり吐かせて取り戻せば、由来はきっと元気になる。
力を取り戻せば、この不利な状況を打破できる。
「オラァッ!!」
その読みだったが、敵の口角が不敵な笑いを描く。
「!」
ピッガァーーンッ!!
氷山のような大きな氷が砕けて分解し、次々につららのような鋭い武器と化した。
次々と変形して浮遊したまま、全ての切先が、承太郎へと向けられる。
(何?!こんな芸当もできるのか?いや、これは……)
「日本製のおもちゃで言えば、黒髭危機一髪だなあ?」
無数のつららが一斉に向かってくる。
「ッ!」