【千銃士】笑わないマスターとfleur-de-lis.
第5章 On ne vit que deux fois.
結局、俺とマスターはただ震えていただけで終わった。
暫くして続々とみんなが戻って来る。
各部隊を補佐していた短銃は傷付いていたがマスターの癒術で治ったし、林の中で白兵戦となったらしいベスくんもドライゼに抱えられて帰ってきた。
最後までやり合っていたケンタッキーとスフィーも命に別状は無い程度――。
二人を守りながら馬上戦をしたタバティエールとシャスポーも無事だ。
全員で基地に帰る。
みんな疲れ切っていたしボロボロだ。
マスターは軽傷のベスくんを支えるのも兼ねて二人で馬上へ。
それを見るともなしに見ながら考える。
絶対高貴を纏えない俺でも出来る事。
肌寒い初夏の風が肌を撫でると、先程まで俺を掻き抱いていたマスターの体の熱さが思い出された。
マスターは弱くはない。でも一騎当千の将とはいえない。
一思いに殺されるならまだ良い。
でもマスターが捕まって貴銃士のメディックだとバレたら……。
きっと殺されるより酷い目に遭わされるに違いない。
俺達はそれを『知っている』――。
マスターはぐったりとしているベスくんを自分の腹帯で体にくくりつけて馬の手綱を引いている。
戦いは何も銃を打つだけじゃないよね?
そうでしょ?
俺の問いかけは誰にも届かずスピカ(水先案内人)
をいただいた空に溶けた。