第1章 真島という男
夜、時計の短い針が真上を差した頃雅美は漸く仕事を終え店を出ることが出来た。
通りは相変わらずの賑やかさで四方八方から話し声が聞こえてくる。
空には月が浮かびよく目を凝らすとにオリオン座が確認出来た。
12月の忙しい師走の時期でもこの町は全く変わらない姿がある。
時期にクリスマスが近づいているせいか、通りの至る所にサンタが出没していた。
店の看板を持つサンタや、今にでもパンツが見えそうなぐらい短いスカートを履いた女の子のサンタ。
きっと子供が見たら間違いなくサンタの存在が別の物に変わってしまうだろう。
#雅美#はそんな華やかな通りに背を向けて、北風吹く神室町を歩き始めた。
雅美の家は神室町から程近い所にあり、今は親戚夫婦と暮らしていた。
幼少時代に両親を火事で無くし、それ以来ずっと面倒を見てくれている。
だが、正直雅美は昔からあの家が嫌いだった。
いや、家と言うより親戚夫婦が嫌だったのだ。
火事で無くなった両親の変わりに忽然と雅美の前に現れて、自分の家においでと手を差し出してくれた。
天涯孤独になった自分を引き取って面倒を見てくれるとまで言ってくれた時は嬉しかったし、
両親の分まで生きて行かないとと子供ながらに感じていた。
それに叔父叔母は優しくて接してくれて、辛い過去を乗り越えられるかもしれないと、心から二人を信頼していたのに……。
幸せは長くは続かなかった。
中学生になった途端叔母の態度ががらりと変わり、昔のような優しい言葉も罵声に変わってしまった。
“住ませてやってるんだから掃除ぐらいしろ!”
“気軽に声をかけるな、この野良猫!”
雅美を人間以下で見るような見下した目線が嫌で、次第に自分の部屋に閉じこもるようになる。
そんな時叔父が心の傷に塩を塗るような言葉で近づいてきた。
「何故お前を引き取ったかわかるか?両親の借金を肩代わりする条件で俺達がお前を買ったんだよ」
借金?
買った?
意味のわからない言葉を出されて困惑する雅美を、
叔父はベッドに強引に押し倒してそのまま犯してしまったのだ。
雅美が中学2年生。
1番敏感な思春期の頃だった。