第1章 真島という男
雅美は厨房にメニューを伝えると、ちらりと横目で真島と桐生を眺めた。
真島達と話すようになったのは、つい数ヶ月前の事だった。
桐生は度々店を利用していたので顔馴染みだったが、
真島と連れで訪れた時、何故か真島から馴れ馴れしく話し掛けてきた。
店に来る度に、顔から火が出そうな言葉を何の躊躇いもなく話せるのはきっと関西のノリってやつなんだろう。
それに同じような言葉を他の女性にも言っているに違いない。
生まれてこのかた26年間、男性経験のない雅美にとってそういう軽々しい男性は恋愛対象外。
いや、寧ろ女性の敵なのかもしれない。
「8番テーブル~」
その時、厨房から出来立てのナポリタンとホットコーヒーが用意された。
雅美はトレーにそれらのメニューを乗せると再び真島達のテーブルへ向かった。
「お待たせしました。こちらホットコーヒーでございます」
桐生の前にコーヒーカップを差し出しテーブルに置くと、ありがとうとほんの少しだけ口端を緩めて桐生が言った。
短髪の髪顎髭を生やし、スーツを着崩れしたスタイルの桐生。
顔も端整な顔立ちなので女性からはモテるに違いない。
桐生の言葉に雅美は笑みで返事すると、今度は真島の前にナポリタンでございますと一言付け加えて皿をテーブルに置いた。
「めっちゃ腹へってんねん。えぇ香りやなぁ」
某お笑い芸人によく似たテクノカット。
左目に蛇の模様がついた眼帯をし、首元には金のネックレス。
革の両手袋をして蛇柄のジャケットを素肌から羽織っており、その胸には鮮やかな入れ墨が彫られている。
どっからどうみてもソッチ系の人間にしか見えないいで立ちだ。
「ん~、しっかし雅美ちゃんが作るナポリタンはいつ食うても美味いなぁ」
私が作ったんじゃないんですけど……。
と心の内で呟きながらも、美味しそうに頬張る真島をじっと見つめる雅美。
その時突然携帯の着信音が店内に鳴り響き、その矛先を見ると真島の周辺から聞こえてくるのがわかった。
「今雅美ちゃんの手料理食べてねん。これ以上に大切な用件があるか」
あまりにも強引過ぎる言葉に、桐生は呆れ顔。
だが着信は鳴り続け止まる様子も見受けられない。