第1章 真島という男
雅美はこのアルプスで正社員として働いて、もう三年になる。
日々目まぐるしく変わる神室町に種族様々な人間がいる事はもちろん知っているつもりだ。
この二人が自分とは違う裏社会で生きているという事も。
それに………。
「今日も雅美ちゃんは可愛いなぁ~」
この眼帯人間に何故か気に入れられてるということも。
「なぁなぁ、今日仕事何時に終わるん!?終わったら飯でも行こうや~」
「何時に終わるかわからないから無理ですっ!」
二人がオーダーしたメニューを伝票に書きながら、雅美は速答した。
「いつになったら俺の誘い乗ってくれんねん~」
雅美の素っ気ない態度に人物はガッカリ肩を落とす。
そんな姿を見ていた桐生がまぁまぁと言って宥める。
「真島組の組長がこんな姿なんて、組員が見たらどんなどう……」
そう言いかけた瞬間、
再びあの鈍い音がテーブルの下から聞こえてきた。
「…両足は…、キツイ……ッ」
桐生が苦渋な表情をしながら途切れ途切れで声を上げる。
その痛々しい桐生に雅美はつい同情をしつつも、テーブル席から離れ厨房へ足を向けた。
「今日も来てるの~?あのヤクザ。雅美も変な人達に絡まれて大変よねぇ」
「はぁ……」
年配の女性従業員に声をかけられ雅美は思わず 苦笑いしてしまう。
「特に眼帯の人、毎日店に通ってるじゃない?ここはキャバクラじゃないっつうの」
女性は眉間にシワを寄せ、真島を遠くから冷たい目で眺めながら愚痴を零す。
「雅美ちゃんも迷惑なら迷惑って言った方が身のためよぉ?ヤクザとつるんだって、良いことなんてあるわけないんだらさ~」