第2章 ふたりの距離
幹部会を終えた真島はそのまま自宅へ戻った。
着慣れないスーツのネクタイを緩ませ、煙草に火をつける。
脱いだジャケットをソファーに投げ捨てたまま、勢いよく腰を下ろした。
「ふぁぁ~、いつ行ってもあの空気は苦手やな」
もちろん部屋には誰もいない。
独り言が増えたのはきっとストレスが溜まったからかもしれない。
真島は口で煙草を加えながら、背もたれに寄り掛かりじっと天井を見上げた。
雨音が静寂した室内に響き渡る。
そういえば、今日はクリスマスだとふと真島は思い出した。
国道がやけに渋滞していたと思ったら、けやき並木のイルミネーションを見るために路駐した車が道路、1車線潰していたからだ。
雨なのに傘を差して身を寄せながらイルミネーションを見る恋人達を車内から眺めては、
アホらしと真島は冷たくあしらっていた。
クリスマスなんて全く興味無い。
何が楽しくてケーキを食べ、プレゼントを渡し合うのかさっぱりわからないのだから。
「去年の今頃は、何しとったかいなぁ」
煙草の煙を吐き出しながらポツリと呟く。
どうせキャバクラで惜しみなく酒を飲んで、気が済むまで遊んでいたに違いない。
記憶にも残らないような日々。
楽しいことや嬉しいことなんて、その一瞬だけだ。
だがその方が自分にとってラクなのかもしれない。
それに浸るほどの思い出もないのだから。
真島は灰皿で煙草を消すと、そのまま台所に向かった。
冷蔵庫を開けて、何か飲み物が無いかと捜すが、自炊をしない為冷蔵庫の中は空っぽ状態に近い。
常時置いているミネラルウォーターも、朝一で飲んで無くなってしまったのだ。
「なんも無いやん。買いにいかんとあかんなぁ」
よりによってこんな時に物が無くなるなんて。
ガックリ肩を落として、真島は冷蔵庫を閉めた。
そしてそのまま玄関に向かうと、
だるそうにビニール傘を手に取って家を出た。