• テキストサイズ

在りし日の歌【文スト】【短編集】

第1章 招かれざる客



〈noside〉


「太宰さん、何度も云ってるけどお断りします。私は中也の側に居たいんです。身長は……太宰さんの方が高いですけど私からすれば中也だって6センチ高いですし。それに肩車をされて人を見下ろす趣味も無いです。」


真剣な表情で太宰と向き合い話をする彼女に中也は徐々に疑問が湧いてくる。


「おいッ!何度もって事はずっと此奴に付き纏われてンのかよ!」

「失礼だなー。私はただ愛を伝えているだけだよ。」

「それを付き纏うって云うンだよ!手前の事だから色んな奴に“私と心中を〜”とかほざいてンだろ!?」

「そうだよ?」

「いや、其処は否定しろよ。」


事の成り行きを見守る敦は愛理に、今日の夕食ロールキャベツだけど食べて行く?と尋ねられ本日二度目となる深い頷きをした。
それを発端に何時終わるか分からない喧嘩に見せかけたじゃれ合いは放って置こう、と敦達は暗黙の了解を示し合せ其の場から離れる。


『あ!でも鏡花ちゃんご飯作ってるかな?連絡してみる?』

「それが今日は社長と豆腐の食い倒れツアーに行くらしくて…」

『成る程。だから二人共急いで帰ってたんだねー。なんだか本当の祖父と孫みたいだね。』

「見ていて微笑ましいですよ。一時は如何なる事かと思いましたけど、本当に良かったです。」

『敦君のお陰だよ。まぁ敦君も如何なる事かなって思ってたけどね(笑)』

「あ、あはは…」


急に静かになったことを不審に思い愛理が周りを見渡そうとすると、背後から何者かにグイッと腰を引き寄せられ身体を反転させられ顎を持ち上げられた。


「俺を放っといて随分と楽しそうにしてンじゃねェか。」


嗅ぎ慣れている匂いと見知った顔に思わず強張らせた身体をほぐすのも束の間にまた違う緊張が走る。
顔や耳まで真っ赤になっている自分を見て欲しくなくて愛理は思わず顔を逸らす。


『だっ、だって太宰さんと話してたし、良いじゃない…』

「俺は愛理と話してェ。だからこっち見ろ。」


正直に気持ちを伝えてくれる中也に負けて云われた通りにすると顔が至近距離にあったことに気付く。


「…で?何で此奴らが居るのか説明しろ。」


あぁ、本当に自分は中也に弱い。
何時になったら勝てるのだろう…と思いながら成り行きを話した。





/ 257ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp