第5章 睡蓮
-定時
「嗚呼、疲れた。此れでやっと帰れるよ…。定時って何て素敵な響きなのだろう。」
「手前は疲れる程其処までやってねェだろ!ってかマフィアに定時とかあんのか!?」
『中也さん、其処は気にしてはいけません。』
「どんな会社でも二十四時間働きっ放し無いでしょ。其れこそ過労死するよ。………待てよ、過労死か。ふむ。」
「新しい自殺方法思いつくな!!迷惑極まりねェんだよ!」
ご丁寧にひたすら突っ込み続ける中也は定時を過ぎたと云うのに未だ手を止めない愛理に気が付く。
「おらっ、定時だ。手前も止めろ。」
『後少しで終わりますし暫く残ろうかと…』
「明日やりゃあ良いだろうが。さっさと帰って休め。」
『……分かりました。』
「あっ、愛理今晩は?」
『駄目だって云っても無理やり連れて行くでしょう?』
「まぁそうなんだけど一応ね。」
『はいはい、行きますよ。では、お疲れ様でした。』
中也に挨拶を終えると彼女は外套と鞄を持ち執務室を出て行った。
太宰は意味深な笑みを残し其の後を追うように出て行くと一人残された中也は頭を抱えて考え込む。
彼奴ら付き合ってンのか?
いや、違ェな。そんな雰囲気はねェ。
だとしたら矢ッ張り大人の関係ってやつか?
くそっ、選りに選って相手があの青鯖野郎とは…。
こんな事ならもっと強引に行っとくべきだったか?
一方その頃、
「ふふっ。」
『如何したんです?』
「いや、今頃頭を抱え込んでいるのだろうと思ってね。」
『…本当に性格悪いですね。』
「君の頭脳の師匠を悪く云うのかい?」
『貴方が教えたいと申し出たんでしょう?現に体術を始めとする他の事は中也さんに習いましたし。』
「君は私に似ていたからね。」
『じゃあ今は違うんですね。』
「君には帰る処があるだろう?」
『太宰さんにも、ですけどね。自分の価値を下げ過ぎですよ。』
「そう云う処さ。」
『そうかも知れませんね。』