第24章 不安定要素
帰宅した頃には午後七時。
家の明かりは付いている。
酷く重たく感じる玄関の扉を開けると矢張り森さんが出迎えてくれた。
森「おかえり。」
『……ただいま。』
森「連絡は必ずする約束なんだけどねぇ。」
にこにこしながら私を撫でる手は頭から頬、そして首に移動した。
血管を一つひとつ確かめるように親指が這う。
『ごめんなさい、行きたくなくて…。』
森「行けなかったではなくて行きたくなかったんだね?」
『……….はい。』
うん、分かったよ。とだけ云うと冷たい笑みだけを残し自室へ戻ってしまった。
悪寒を感じたが此処まで来るともう引き下がれない。
私も自室へ戻り例の理想主義へと電話を掛ける。
プルルルルプルルルルプルルルル————
「もしもし。」
出ないことも想定内だったが三コール目で繋がり安堵する。
『先生、ご無沙汰しております。愛理です。』
国「……あぁ、森さんの。随分と久しぶりだな。其れで用件は?」
『出来れば直接お会いして話したいんです。お時間頂けませんか?』
国「ふむ…。明日の午後六時ならば空いているが。」
『分かりました。ではその時間に。』
国「嗚呼、おやすみ。」
『お休みなさい。』
電話を切った私は何時でも家を出られる様に最低限の荷物を纏める。
あくまで“最低限”だ。
部屋の様子が変われば必ず彼の人は気付く。
ただでさえ今日のあの態度。
どんな手を使ってきても不思議ではない。
ハタと作業する手を止める。
私はこんなにも本腰を入れていたのか…。
何時か私にも心から笑える時が来るのだろうか。
そんな夢を思い描きながら荷造りに没頭した。