第21章 背徳のシナリオ ~前編~
「こんなおばちゃん、からかわなくても……」
「それっ!ほんとすいません!でも……さんは、俺の中では……いつも元気で明るくて……その笑顔に俺……」
「いやいやっ!もういいよ!ヒーローにそんな事、言わせちゃダメだわ、私っ!」
グッと俺から離れようとするさん。
たしかに、力もけっこうある。
ま、もちろん俺には敵わない。
俺はさっきよりも、きつく抱き締め直すと
「俺じゃ、頼りないっすか?」
「ま、まさかっ!!!私じゃとても鏑木さんに、釣り合わないっ!!!」
「……釣り合う?」
俺の腕の中で、何度も首肯くさん。
「だけど……俺、元気で明るくて、手も足も大きくて、何でも受け入れて笑ってくれる、頑丈そうな人がタイプみたいです」
「頑丈……たしかに……うちの家系、長生きなんだよね……」
そう呟いたさんを、俺は繋いでいた手を離して、
両手でギュッと抱きしめた。
確かに女性にしては、がっしりとした身体だ。だけど丸みを帯びてて、なんだかふかふかで、柔らかくて……
強く抱いても、絶対に壊れない……
「ヤバい……俺の理想のタイプ過ぎるわ……」
すると今度はさんが、俺をギュッとこれまたけっこうな力で抱き付いてきてくれて……
「24時間、働き者の鏑木さんは、私の理想だよ」
って……
「虎徹」
「え?」
「呼んで」
「え……っと、流石に呼び捨ては……」
「俺の方が年下だし」
「んーーーじゃあ……虎徹君!」
虎徹君
久しぶりに聞いた、その呼び名に……
思わずまたポロッと涙がこぼれた。
「やだっ、ごめん!何でっ!?泣かないで!イヤだったの!?」
「ち、違う……」
友恵が俺を呼ぶ時の、呼び方……
あぁ……
だけど、こんなに力強い。
さんは、俺を置いて何処にも行かない。
きっと……