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【忍たま】短編集

第3章 ただそれだけを(立花仙蔵)


それは仙蔵たち六年生が、まもなく忍術学園を卒業するという何気ない日だった。

私は仙蔵と共に学園の外にある大きな桜の木の下に来ていた。
まだ桜の花は咲いていない。


今日の仙蔵はいつもと違う。
いつもの自信たっぷりな感じがなく、あまり目も合わせてくれない。
不思議に思う私に、仙蔵が差し出したのは小さな包み。


「これを……受け取ってくれるか?」


やっぱりいつもと違う。
今まで仙蔵は色々なものを私にくれた。
でもいつも押し付けるというか、くれてやるくらいの勢いだったので、初めて私に受領の選択を託してきた。


「これは?」

「……それは……」

「…開けてもいい?」

「あ、ああ。」


歯切れが悪い。
仙蔵を見ると困ったような顔をしてほんのり赤い。
私は受け取って包みを開いてみる。


「わぁ。」


中に入っていたのは、可愛らしい梅が彫られたつげの櫛。
小ぶりだけどとても綺麗なその櫛に、思いがけず心が踊った。


「これ…」

「受け取るかどうかは、椿が決めてくれ。」


正直言うと少し迷った。
いつも仙蔵に貰ってばかりだったから。だけど、


「ありがとう。」


仙蔵の気持ちを貰うことにした。
すると仙蔵は心底安心したように息を長く吐いて、やっと笑みを見せると寄りかかるように私に抱きつく。


「あ、あのね、だけど私貰ってばっかりだから、私も仙蔵に何かあげられたらいいんだけど。」


そのままの体勢で仙蔵が笑う気配がする。


「私ならばもう貰っている。」

「え?私何も…」

「椿、お前の心だよ。」


そう言って私の顔を覗き込む仙蔵はいつもの自信たっぷりの顔で、その距離の近さにドキドキしているとそのまま口づけされてしまった。
浅く繰り返されるそれを受け入れ幸せに浸ると同時に、寂しさも押し寄せる。

この温もりはもうすぐ触れることができなくなってしまう。
彼が、プロになるから。
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