第2章 桜色(七松小平太)
嬉しそうに話す小平太。
彼らしいその言葉を理解するのに、私は少々の時間を費やした。
「えっと、それってつまり……え、えぇ!?」
予想外過ぎる展開に開いた口が塞がらない。
私の反応に小平太は、叱られた子犬のようにシュンとした。
「ダメか?」
「だ、だめじゃないけど…急すぎてどうしたらいいのか……」
小平太は私の答えを肯定的に捉えたらしく、また満面の笑みになった。
「心配はいらない。実は家はもうあるんだ。今から行こう。」
「そうなの!?もしかしてこの怪我はそれと関係あるんじゃ…?」
包帯の巻かれた小平太の腕に触れる。
「ああ、少し無茶な仕事もしてきた。椿に帰る家を用意したくてな。これは大したことはない。」
「なっ!大したことないって、バカじゃないの!?もっと大事にしなさい!小平太に何かあったら嫌だよ。」
「ははは、久しぶりに説教されてるみたいだな。」
「してるのよ!おバカ!」
相変わらず、何を言っても効果がない。
この二年どうやって生きてきたのか気になるところだ。
私が側で見張っていなければ、また無茶なことをするかもしれない。
「私が小平太の側にいなきゃだめだね。」
「ん、そうしてもらわなければ、困るのだ。」
二人で笑い合う。
風が吹いて桜の木がサワサワと音を立てる。
よかったね、そんな声が聞こえた気がして私は小平太から離れて、桜の木の元へ近付く。
その逞しい幹に額をつけると、桜の木は嬉しそうに枝を揺らす。
「今まで一緒にいてくれてありがとう。私はもう大丈夫だよ。また会いに来るからね。」
これからもっと暖かくなって花が開くだろう。
この場所でたった一本の大きな桜の木。
「こいつが咲いたら見に来ないとな。」
「うん!」
隣に並んだ小平太を見上げ笑顔を見せる。
小平太の顔が近づいて、私たちは口づけを交わす。
「…桜咲いたな。」
「え?」
「椿の顔赤いぞ。」
「っ、なによ、小平太だって。」
二人が揃うと花は色づく。
まだ未熟な蕾の下、未熟な私たちは未来の約束をした。
━桜色 完━