第2章 桜色(七松小平太)
想いを馳せれば、浮かんでくる小平太の顔。
『椿、バレーやろう!』
『マラソンに行くぞ。大丈夫だ、私が連れて行く。』
『なぁ椿~』
『椿!』
『私は椿が好きだ。』
「…っ!」
瞼に焼き付いた笑顔。
耳に残る、私を呼ぶ声。
抱き締められたその温もり。
覚えている、その全てを。
会いたい
会いたい
会いたい
会いに来てよ。
私が忘れてしまう前に、会いに来てよ。
「……小平太の、バカーーーっ!!」
寂しさを紛らわすかのように、あるいは会いに来ない腹立たしさを晴らすように大声で叫んだ。
見上げた空は青く清々しい。
晴れやかなそれに、少しは私の気持ちを受け入れられている気がした。
「……お、おぅ……それはすまかっ……た?」
「……へ?」
背後から聞こえた人の声、誰かいたなんて気付かなかった。
恐る恐る振り返る。
見慣れない装束、体中包帯と絆創膏だらけ。
だけど、その顔は━━
「……こ、へい…た?」
「おぅ。」
記憶の中の小平太と同じ笑顔。
ニカッと気持ちの良いくらい眩しい笑顔。
小平太だ。
ずっと待ち続けてた、小平太だ。
「小平太!」
「椿!」
小平太がこちらへ駆け寄ってくる。
私も小平太に駆け寄る。
そのまま抱き締め合う。
温かいその感触に安心して涙が溢れる。
「小平太のバカっ!会いたかった、会いに来て欲しかった!寂しかったんだから!」
「すまん!本当にすまなかった。私も椿に会いたかった。」
夢じゃない、幻じゃない。
今ここに小平太がいる。
私の背に腕を回す。
私の髪を撫でる。
耳元で声が聞こえて、温かな温もりに触れる。
ずっとこうして欲しかった。
名前を呼んで欲しかった。
私が会いたかったのは、桜の木じゃない、小平太だったんだから。
「椿、私は決めたぞ。春は桜、夏は海、秋は紅葉、冬は雪、全てを椿と一緒に見る。お前に帰る家をやる。だから私と共に生きよう。」