第5章 ※三角形 case3※
私から誘うなんて無理だ、とか。
手なんか舐めるな、とか。
雰囲気をぶち壊してでも、言ってやりたいのに、一度でも芽生えてしまった羞恥が邪魔をする。
声を出したいけど、唇からは乾いた息が漏れていくだけで、音になってくれない。
そんな私を見ていた秋紀の眼が、笑うように細くなって、顔が近付いてきた。
軽く触れ合う程度で、すぐに離れていく唇。
「なーに?今更緊張してんの?何回もヤってんのに?
…それなら、さ。ゆっくり、風呂でも入って落ち着いてくれば?」
腕の力が緩んで、私を解放する。
少し身体が離れて、羞恥心からも解放されたと思えた。
「別に緊張なんかしてないからね。」
自分で主張すると、嘘臭いって分かってる言葉しか出ない。
でも、今言い返せるのはこれくらいだった。
「お風呂、入ってくる。」
一緒に居続けたら、また弄られてしまいそうで、逃げるようにバスルームの方に向かう。
「じゃ、ベッドで待ってるな?」
部屋を出る直前、聞こえた声に恥ずかしさが舞い戻ってきた。
勝手にしろ、くらい言い返したいのに、また出来なくなってしまっている。
不安定になっていた精神が、元に戻るには時間が掛かるようだった。