第1章 三角形 case1
言葉に出してしまうとマイナスな考えばかりが口から出て、歩いていた足が止まる。
「…俺、朝のミーティングの時にさくらは辞めると思いますって話、したよ。」
そんなに早くから気付いていたんだ。
でも、今回は助けてくれる気も、甘やかしてくれる気もないんだ。
きっと、普通の人より孤独感を強く感じてしまう私には、味方がいない状態が耐えきれなかった。
分かってよ、私の言う事を聞いてよ、なんて子どものような我儘。
もう、聞きたくない。
京ちゃんが私を否定するなんて、信じたくない。
「さくらが本当に辞めたいなら俺には止める権利なんかないよ。辞めたい理由は、皆に迷惑掛けてるから?役に立たないから?…さくらは本心で辞めたいと思ってる?」
無情にも京ちゃんの口は止まらず、淡々と言葉が聞こえてくる。
「…私、辞め…た…。」
辞めたい、とすんなり口に出せたら良かったのに。
考えてみれば言うチャンスは幾らでもあった。
でも、言葉に出してしまうと終わりだから言えなかったんだ。
「…くない。辞めたくなんか、ない。」
本心ではあの場所に居たくて、皆の傍を自分の居場所にしたくて。
辞めたいと言葉にすれば、さようなら、って言われるかもしれないのが怖かった。
「…明日。朝練に出て皆に言いなよ。俺が辞めるかもって言ってるから皆、不安がってる。
失敗したり、ドジ踏んだりしても一生懸命やろうとしてるさくらの事、皆好きだよ。」
あぁ、だから普段は殆ど会話もしない尾長くんが迎えに来たんだ。
ノリでも抱き着くまではしない、木兎先輩が私にくっついてきたんだ。
嬉しくて涙が出そうだ。
少し前でこちらを振り返った京ちゃんは、照れたように笑ってた。
さっきのは私の本心を分かっていたからこその否定。
つくづく京ちゃんには敵わないな、なんて思いながら再び歩き始めた。