第2章 月はまだ見えない
穏やかに晴れ渡る空。
風もなく過ごしやすいこんな日は、草むらに寝転がって過ごすのが一番いいのに。
今は午前の授業中。忍者のたまごたちは座学の最中のようで、誰の声も聞こえない。
今日のランチは何だろう、そんなことを考えながら先程ミスをしてしまった書類の訂正に手をつける。
ふと、誰かが戸を叩く音が聞こえた。
どうやら僕の出番のようだ。
「はぁい、どちら様ですかぁ?」
戸を開けてみるとそこにいたのは、お世辞にも綺麗とは言えない格好をした小柄な男。
着ているものはボロボロで、全体的に薄汚れている。特に足元は泥まみれになっていて、所々に切り傷のような古い傷も見受けられる。
長い髪を無造作に上で結び、幼さの残る顔つき。
セールスならもう少しましな格好をして下さい、でもお断りですからねと思いつつ、その人物を凝視する。
急いで来たのだろうか、男は目を見開いて肩で息をしていた。
「が、学園長先生にお目通り願います!」
「では僕はこれで。失礼しまぁす。」
胸に『事務』と書かれた彼に案内され、学園長の元までたどり着いた。
泥だらけだった足は、先に洗うことを許されたので助かった。流石にそのままでは失礼極まりない。
学園長室という小さな空間に、それとおぼしき人物、それに何故か犬。
私はまだ緊張の渦の中に囚われている。
「突然の訪問、大変失礼致しました。私は竹森椿と申します。本日は忍術学園学園長殿にお願いがあり、馳せ参じました。」
学園長は黙って私の話を聞いてくれる。同席している犬は、慣れた手つきでお茶を出してくれた。礼を言うと笑ってくれたような気がする。
「どうか私を、この学園で働かせて頂けませんか?」
静寂
張り詰めた空気に、逃げ出したくなる衝動を押さえ込む。ここで断られてしまったら、私は━━━━
そんな私の気持ちとは裏腹に、学園長の鼻から出てきたのは風船。何とも言えぬ顔で見つめると、隣にいた犬が慌てて爪楊枝でそれを割った。
「ふむ、何故あなたのような若い娘さんがここで働きたいなどと言うのかね?」
特別驚きはしなかった。この方は忍術学園の学園長先生なのだ。私が女だというのも、すぐにわかったのだろう。