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砂漠の月

第1章 砂漠の月00~70


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「月子ちゃん、入っても、いい?」
「ふぇ? えっ? 市先輩?!」
「うん、開ける、よ?」
「わ、ちょ、ちょっと待ってくださっ」

トントンとノックした市が声を掛けると、扉の向こうからは存外元気な声が返ってきて晴久と顔を見合わせホッとする。
扉を開けようとすると待ったがかかったが、同時にどたどた、ばさっという物音が響いてきて、市が驚いて扉を開けるとベッドから落ちた月子がいたた、と唸りながらベッドのすぐ横にうずくまっていた。

「月子ちゃん、大丈夫?」
「うぅ……はい。す、すみません」

市が駆け寄ると、ぺたりと床に座り込んだ月子が恥ずかしそうにしながらもコクリと頷き、市は良かったと微笑む。
後ろから入ってきた晴久が座り込んだ月子を見て、立ち上がろうとするのを手伝ってくれたのでそのまま月子はポスンとベッドに座り込んだ。

「何やってたんだ?」
「え? えっと……」

何かを慌てて隠そうとしていたように見えた晴久が聞くと、直球で聞かれた月子はうろうろと視線を彷徨わせてどうにか誤魔化せないかと言葉を探している様だった。
しかし、プリンをサイドテーブルに置いた市が布団の影から見つけたモノを引っ張り出すと、それはもう言い逃れが出来ないモノで月子はきゃーっ! と叫びながら市からそれを取り返そうとする。
熱で休んだはずの月子のその動きと元気の良さに安堵しながらも、市が上手に避けて手にしたそれは背丈が二十センチほどの真っ黒な髪が腰まである人形、茶色の髪が肩までの人形、グレーの髪が肩までの人形の三体だった。

「お前、熱出して休んだのにこんなことしてて良いのかよ」
「うぅ……病院に行ったら疲労からくる熱で、風邪じゃなかったので半日寝てたらほぼ下がって、やることなくて……」
「これ、お人形?」
「はい……その、皆の人形を作ろうと思って……」

熱で寝てる時、部屋に一人が寂しかったから、とぼそぼそと言い訳のように言う月子に、階下で元就が抑えに行った両親を思い出し市と晴久は顔を見合わせる。
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