第1章 最初の一ヶ月
お金はゆったり減り、時間もそれなりに過ぎていく。
他のプレーヤーからちょっかいをかけられることもなく、夜勤の店員さんはウトウト。
レコードは聴いたことのない洋楽を流している。
このまま朝まで過ごせそうな気がしてきた。
朝になったら始発に乗って、どこか遠い町に行こう。
その後のことは、それから考えよう。
陰鬱な気分にわずかな光が差し、私はさくさくゲームを進めていく。
「よし、ハイスコア、ハイスコア♪」
て、操作をミスった! うわあああ! インベーダーが真上の段に!!
もうダメだ!! せっかくハイスコア直前だったのにー!!
私は絶望的な気分で、次のプレイをすべくポケットの百円を探ろうとした。
もう残機もゼロ。ハイスコア目前で、虚しく全滅――。
そのとき。
「どいて」
誰かが横から割って入ってきた。
「え……?」
操作は鮮やかだった。
流れるような弾がインベーダーの群れをなぎはらっていく。
そして『ハイスコア更新!』の表示。私は呆然とする。
インベーダーは最下段まで来ていたから、絶対に弾が自機に当たってるはずなのに。
「何で逆転出来たんですか?」
「名古屋撃ち」
無表情に言うのは一松さん。
一松さんは私を少しどかし、本格的な戦闘態勢に入る。
「一番下の段にいる敵の弾なら、被弾しても死なないってバグがある。
それを利用したテクニック」
おおおおおっ!!
そしてインベーダーは全滅し、次なる侵入者たちの群れが頭上に現れる!!
私はすっかり傍観に徹してしまった。
一松さんは眠そうな顔で無駄の無い操作。
スピーディーに敵を殲滅(せんめつ)させていく。
ハイスコアをサクサクと更新していった。
「すごいすごい!!」
私は手を叩き、神プレーヤーのテクに飛び跳ねんばかりだった。
「ここまで」
でも一松さんは、あえて途中で負けて終わらせてしまった。
『GAME OVER』の悲しい表示が出て、タイトル画面に戻る。
「ええ~」
このまま行けば、店の壁に貼られた『最高得点』も更新出来そうなのに。
「また見せてやるから」
と、怠そうに立ち上がる。壁の時計を見ると、日付が変わる時刻だった。
一松さんは店員さんを起こし、コーヒー代を払うと店を出た。