【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】
第1章 神の初期刀・前編(加州清光、大和守安定編)
こわごわと、小刻みに震えながら視線を上げる。途端に全てを見透かすような、自分ごときには到底理解できない高次元の力を秘めた二つの瞳とぶつかって、目が離せなくなった。
月明かりでない、奥に何か光源があるのではないかと思うほど不思議な輝き方をする目が、右と左、全く異なる色調で真っ直ぐにこちらを見つめてくる。感情の表れが薄い無機質な右目の白。鮮血を押し固めたような有機的なおぞましさをはらんだ左目の赤。
この本丸では一番の古参で主のこの目は十分に見慣れたはずであるのに、一瞬も反らすことなく見つめられると途端に自分が蟻よりも矮小で無価値な存在に思えてきて、耐え難いほどの惨めさが身体に重くのしかかってきた。
「あ、ぁ」
目を見開いたまま嗚咽を漏らす。先ほど緋雨に名前を呼ばれた驚きで引っ込んでいた涙が、再び壁を瓦解させて外に溢れ出してきた。目に映るもの全てがぐちゃぐちゃに混ざって訳がわからなくなるのが怖くてたまらなくて、緋雨の方に縋りつくように手を伸ばす。
「ごめ、んなさ……ううう、ごめんなさい。きらいにならないで。もう、もうわがままいわないから。ごめんなさい、いやだ、すてないで、うう」
ごめんなさい。ごめんなさい。きらわないで。すてないで。緋雨の単衣の袂を握りしめながら、清光は譫言のように謝罪と懇願を口にした。まだ乾ききっていない爪紅が白い衣に擦れべったりと付着するが、緋雨は咎めない。
何かしなければ。役立たなければ。報いなければ。何も出来ない稚児のようなままではいつか愛想を尽かされる。いくら緋雨が優しく、自分を捨てることなど到底するようには思えなくとも、「使えなくなって」捨てられた過去の記憶は容赦なく清光の精神を締め上げる。深い傷のように膿んで痛みと恐怖を植え付ける。手渡される愛の性質にすら敏感になって不安を呼び起こす。額を畳に擦り付けるようにして頭を垂れ、全身を恐怖に震わせながら取り憑かれたように謝り続ける清光の姿は、見目が整っているだけに余計に哀れみを誘い見るに堪えなかった。