第89章 頬を抓れば、すぐに分かる 参
『そんなの、恋に決まってんじゃん』
『ま、お前って他校のコとすぐ別れるの多かったしな』
『実質、初めてのちゃんとした恋愛なんじゃない』
翔さんの言葉がぐるぐる回る。きっと、図星なんだ。
友達に胸焼けするとも言われ、そのときに思わなかったことも無い。
フィクションの”恋”って、現状のオレかもしれないって。
全く思わなかった訳じゃないけど、でも、認める勇気が無かった。
どうしても、どうしようもなく、こわかった。
智さんにキスしたのが、女装してもらって出かけた初のときで。
しかも、化粧を落とした後に。オレがしたくなって、して。
ふと、思った。
もしかしたら、その土台があったんじゃないか、と。
何やってんだって話だけど、酷いことなんだけど。
自分が男を好きなんじゃないかって思って、それが凄く恐ろしかった。
それで分からないフリをしてた。分からないと意図的に思い込んでた。
だけれど、そろそろ目を覚まさなきゃいけない。
オレにとっての正解が出ちゃったんだから。
これ以上は、ダメだ。
頭では理解しきったつもりだ。
なのに、どうしてこんなに臆病になるんだろう。
どっかで分かってた癖に。
智さんが拒否しないことに、安堵するって。
厚意にも、好意にも、甘えてるんだって。