第89章 頬を抓れば、すぐに分かる 参
「よっ!お前から声かけてくるって久々だな」
「そうっすね。センパイ、久しぶり」
オレが頼ったのは、職場の違う部署のセンパイだった。
もっと言えば中高が同じで、その当時ずっと憧れてたひと。
ただ、若干の気まずさというか、ぎこちなさというか。
あるときから避け始めちゃって疎遠になった。自分がそうしたんだけど。
そんなだから、新人研修の挨拶回りで見てビックリした。
翔さんは学生のときから変わってなくて、今では偶に世間話をしたりしてる。
それでも約束を取り付けるのは緊張しちゃって、少し時間がかかってしまった。
まぁ、言わずもがな、会う日までの間にも智さんにキスしちゃってんだけど。
だって断られないって安心感はあるし、見てると何かさぁ。
「松本?心ここにあらずって顔してるぞ」
「え、あ、すいません」
「いいけど。見た感じ、それが相談のネタなんだろ」
確信を持った口調で言われ、頷くしかなかった。
あぁ、このひとはやっぱり変わっていない。
何だか、懐かしさすらある。
今日は、答えを出そう。
それがたとえ、信じられないことだとしても。
認めたくないことだとしても、センパイが言ったなら。
それはオレにとっての正解になるだろうから。
ちゃんと、話そう。