第1章 1
冬の陽は短く、とっぷりと暮れてから二刻は経つ。
昼寝と称して惰眠を貪っていた二人は、ようやくベッドから這い出た。
「…お腹空いた」
長身の恋人のシャツの裾を掴んでダイニングまで降り、リオがぼやく。
「…そうだな。…だが、適当な食料は無かったのではないか」
ややあってヴィンセントが応じた。
わかっている。
昨夜、こうなることを予想しながら、買っておくのを面倒がったのだ。
「何かしら…あるんじゃない」
米はあった筈。ライスボックスを横目に認めつつ、冷蔵庫を開く。記憶通り、夕食になりそうなものは無い。パントリーの引き出しを上から順に開けてみる。パスタ、しかしソースが無い。レトルトのカレー。ふむ。インスタントラーメンは無し…。
思った以上に選択肢が無かった。
「レトルトカレーがある。用意するよ」
「ありがとう、リオ」
額にヴィンセントのキスが降りてきた。
漆黒の髪が頬を撫でる。
向けられた微笑に、ちょっと舞い上がってしまう。
大したことのない労力に対しても丁寧に愛情を伝えてくれるヴィンセントが、堪らなく好きだ。
照れ隠しに唇を尖らせて視線を外す。
だが、その唇にキスをされた。
短いが、離れ際に熱い舌で唇を舐めてゆく。
「っ、…もうっ!」
ヴィンセントがわざとらしく片眉を上げる。
「キスを欲しがっているのかと」
わかっててやっているんだ、左の口角が上がっているじゃないか。
だけどドキドキが止まらない。
「テーブルに行ってて」
赤くなった顔を見られないよう、背中を押して追いやった。