第142章 白い箱
本日は同居人の誕生日。
そして男はその同居人に想いを寄せておりプレゼントを送らないという選択肢は無かった
何を贈るべきなのか……
潜入する都合で女にプレゼントを贈る事は今迄もあった。しかしその際の品物は全て執事に任せていた
よって男自身が選び贈り物をするのは人生で初めての事だった
無難に貴金属類かとも思うが間柄を考慮するならば違う気がする
早く立ち去りたいが一向にプレゼントが決まらず溜息が漏れる
そんな時男の頭に過ったのは彼女から贈られたマフラーだった
明日から雪国への旅が始まる
男が立ち止まったのは手袋のコーナーだった
職業柄人間の身体構造を把握している男が幾度と握った手の大きさを把握していない筈が無く
目的を手袋に絞った途端に直ぐにプレゼントは決まり沢山の視線を受けながら足早に店を後にした
同じ現場に成った前田の冷やかしを流しながら仕事を終えて帰路に付く
普段よりも急く気持ちは自然と歩幅を広くして道を行く中
パタパタと揺れるコンビニ前の旗が視界に入った
【クリスマスケーキ受付】
素通りしてから立ち止まる
「……………。」
踵を返してコンビニに立ち寄ると苺が沢山乗った生クリームのケーキを購入した
アパートの扉を開けば
「お帰りなさい!」
嬉しそうに弾んだ声に心が綻ぶ
男にしては柄にも無く心を弾ませていた事を彼女は知らない