第142章 白い箱
「開けてごらん。」
促されるまま開いてみれば中身は手袋だった
シンプルな色味のファッションが多い私でも気軽に合わせられる黒色で手首には暖かそうなフワフワのファーがあしらわれていた
「沙夜子は指先が良く冷えてるから」
「……ありがとうございます!!」
彼が私の事を考えて選んでくれたプレゼントが嬉しくて
平凡なケーキに沢山のった大好きなイチゴが彼の心遣いだと気付いて涙がポロポロと流れた
嬉しくて嬉しくて仕方がない反面すっかり冬仕様の手袋はきっと彼から貰う最後のプレゼントで
心臓が潰れる程の悲しさと飛び上がる程の喜びがぐちゃぐちゃに混ざった滴を落とし続けた
「泣かないでよ」
困った様に呟いた彼が差し出したフォークをしゃくり上げながら口に含むと甘酸っぱい苺と甘いショートケーキの味がした
「美味しい?」
「………う"ん……美味……じい……」
「鼻水垂れてるよ」
「……これは……涙…です……」
「明日の旅行目が腫れちゃうよ」
「……うぅ"………嫌や……」
暫く泣き続けた私に彼はずっとケーキを食べさせ続けてくれて私は危うくワンホール全て食べてしまう所だった
「ほんまにめっちゃ嬉しいです!旅行に持って行きます!ありがとうございます!」
「うん」
キャリーバッグに入っていた手袋を放り出して新品の手袋を意気揚々と詰め込んだ私はその後明日に向けて念入りなフェイスマッサージをして
「イルミさんありがとうございます!の舞い!」
テンションの上がり方が止まる所を知らず訳の解らない感謝の舞いを捧げた結果
「……近所迷惑だよ。」
至って冷静にあしらわれたのだった
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同日 12:28
男は女性用のアクセサリーや帽子が販売されている店を遠巻きに見ていた
店を出入りしているのは20代から30代の女性達で同居人の年齢層と合っている
「…………。」
店を眺め初めて10分程経った頃男は足早に入店した
ショッピングを楽しむ女性達に混ざって作業着姿で店内を見て回るのは心地好い筈も無いのだが
男は大いに悩んでいた