第5章 終局
クラウスさんは、何だかんだでジワジワと外堀を埋めにかかってきてる。
例えば私の退院パーティーでのこと。
真っ青になって制止する私をよそに、皆の前で私との婚約を公言してしまった。ご実家への報告まで終えてしまった。
テレビ電話でご家族と会話させられた時は、終了後にストレスで血ぃ吐いてしまった。
さらに恐ろしいのは、この件に関して一切の反対意見が聞かれず、皆して祝福ムードであること。
ギルベルトさんなど『あのお小さかったお坊ちゃまに、ついに生涯の伴侶が……』と感慨深げであったそうな。
怖ーっ!!
「カイナ。愛している」
けど、そう言われると、ふにゃっと戸惑いがゆるむ。
「私もです」
微笑んで応え、私たちはベッドに沈んでいった。
…………
嵐は去り、元の日々が戻り、私は幸せいっぱいであった。
もう普通に外出が出来るようになった。
「おまえさ、変わったよな」
昼休憩時。ストリートを歩きながらザップさんが言った。
「分かりますか? 恋とは純真無垢な乙女を夜の蝶に変えるのです!」
「雑草食ってた奴のどこが純真だ!!」
雑草、美味しいのに。
ザップさんはため息をつき、
「そうじゃなくて……前と比べて笑わなくなったよな」
「え? さっき、クラウスさんに負けたザップさんを嘲笑しませんでしたっけ?」
「こ・の・ク・ソ・チ・ビ!!」
いだだだだ。公衆の面前で女性に暴力をふるうんじゃない。
「止めな。みっともない」
銀猿を蹴倒しながら、チェインさんが言う。
けど、私を見て、
「でも、珍しくこいつと同意見だよ」
同意見って、私が笑わないってこと?
「私、笑いませんかね?」
二人が無言でうなずく。
「笑ってもぎこちないし、たまに窓の外、ボーッと見てるし。
ミスタークラウスもギルベルトさんも、心配してるよ?」
ええー!? そんな話、一度もしたことないのに!!
「ミスタークラウスに話せないなら、私が聞くけど? 女同士だし」
「はい、ありがとうございます、チェインさん」
「俺も聞くぜ! 頼りがいある先輩様だからな!」
あんたは野次馬か、ゆすりネタ収拾のためでしょうが!
「大丈夫ですよ。今、すごく幸せです!」
そう言って笑った。
「それなら、いいんだけど」
チェインさんの顔は少し曇っていた。