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【血界戦線】紳士と紅茶を

第4章 異変



 私はクラウスさんの手をぎゅっと握り、

「それより一緒に園芸をして下さるっていう約束、忘れてませんよね?」
 するとクラウスさんのオーラがパッと明るくなる。

「もちろん覚えているとも!! 次の休日に二人で出かけ、途中でボンサイ展にも寄っていこう!」

「いえ、それはいいです」

 キッパリお断りしたが、クラウスさんは聞いちゃいない。
 デートの約束でも取り付けたかのように、ウキウキされてた。

「そうなると、ディナーも良い店で取りたいものだ。
 そうだ、カイナ。たまには夜景の美しいホテルに泊まるのはどうだろう」

 ……今、仕事前。仕事前だから!!

 そうこうしているうちに、エレベーターが止まる。
 ゆっくりと扉が開き、光が差し込む。

「…………」
 クラウスさんのまとう空気が瞬時に変わった。
 表情は私の恋人から、世界の均衡を保つライブラの責任者のそれに。
 私はそっと手を離し、クラウスさんを見上げた。
 
「おはよう。クラウス、お嬢さん」
 そこにスティーブンさんの声がする。
 
 そして……そして……。

「旦那ぁああーっ!! 
 銀髪の動物の声がする。ザップ先輩が、いつものごとく、クラウスさんに襲撃をかけてきた。

「同伴出勤とは良いご身分だなあ!! 往生せいや、公私混同野郎ーっ!!」

 いや、あんだ、どの口で。
 だがそこはクラウスさん。私を背に庇って、一瞬でザップさんをボコボコにし、スッと床に横たえる。

「ぐは……!」

 昏倒する部下には見向きもせず、

「来たまえ、カイナ。とりあえず朝食にしよう」
「あ、はい」

 私はザップさんを踏み、急いでクラウスさんの後に続いた。
「おいこら、チビスケ!! しれっと踏んでんじゃねえよ!!」
 うわー。起き上がり、こっちに絡んできた。ゴキブリ並みの生命力だなあ。

 だがザップさんは『?』という顔をした。
「チビ?」
 私の顔をじーっと見る。夢見が悪く、泣きはらして真っ赤な目の私を。

「な、何ですか?」
「どうしたんだ、チビ。何かあったのか? 誰にやられた?」

 ……声が低い。さっきまで私をからかおうとしていたのに、一気に剣呑な顔になっていた。

 よく分からんが、ここは適当に返事をして、やり過ごそう。

「実はクラウスさんから別れ話を持ちかけられまして」

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