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夢の詰め合わせ

第2章 先生と生徒


アイツは特に秀才でもバカでもない。成績は平均点。自主的に発言するわけでもなく根暗かと思いきや友達もいるし部活にも一生懸命。優等生だが目立たない。こちらが注意して見ないと通知表で何を書いたらいいのか困るくらい「普通の子」だ。よく言えば手がかからない。この曲者揃いの3Zでは本当に目立たない生徒だった。
ただ1つ。「男子と喋らない」こと以外は。
それに気づいたのは恐らく俺が3年間コイツの担任だったからだろう。朝のHR前、昼休み、部活、下校。アイツの回りにはいつも女子がいた。世の中異性にモテるヤツと同姓にモテるヤツの二種類がいるがアイツは後者なのだろう。アイツが男子と話しているところは殆ど見たことがなかった。

(あ、図書室から借りた本、今日までだったか)

ふと机の隅に置かれた本を手に取り国語準備室を出た。


ガラガラガラガラッ

放課後の図書室は賑わっていた。
そこに聞きなれた笑い声がした。
柔らかく大人しそうに見えて心の底から出てる笑い声。それを聞くと俺も楽しくなる。

「あははは、うけるー」
「だろ?!でもそのあとが大変でよー!」

見るといつもは女子に向けられる笑顔がヤローに向けられていた。
イラ…

(……イラ?)

なにかどす黒いものが腹の中を渦巻いたが見ないことにした。

「あ、先生!どうしたんですか?」

入り口に立ったままの俺に気づいた。

「本、返却が今日までだったから返しに来た。お前図書委員だったっけか?」
「そうですよ?もう三年目ですよ」

ふふっと笑ったコイツに一瞬見とれて、それを誤魔化すように本を渡した。
慣れた手つきで作業を進める。
流石、三年もやってれば動きに無駄がない。

「はい、返却OKです。ありがとうございました」
「ねー先輩!コレみて!!」
「なに?あーいいー!かわいいー!」
「でしょ?コレ、絶対好きだと思った!あげますよ!」
「いいのー?マジで?!」

モヤッ

(………ん?)

こんなガキに嫉妬してんのか?

「センセ?」

カウンターの前から動かない俺にきょとんとした顔で見上げた。
その無垢な瞳を、壊したい衝動に駆られた。

「このあと、先生の手伝いをしてもらえるか?」

私が?と首をかしげる。
少し悩んで「いいですよ」と微笑んだその顔を、歪ませたいと思ってしまったんだ…。
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