第8章 決意
『携帯博士の家に置いて来ちゃった…』
「歩美も…」
「僕は一応持ってきましたけど…」
電池が切れだという携帯を受け取ったコナンは裏のカバーを外し直に電池を温めている。電圧が上がるのだというそれをまじまじと見つめ感心すると共にその知識量に驚かされていると、ブレーキ音と同時に体が後ろに引かれる感覚にぐっと足を踏ん張る。車が止まったのだ。
「さっきの奴ら入ってくるぞ!」
「隠れるわよ!!」
先程と同じように奥の荷物の裏へ身を潜めるが、絶対に気付かれてはいけないと息を呑む6人の空気はピンと張り詰めていた。
目当ての荷物を抱えて出ていくかと思われたが、遺体の箱を動かそうと近づいて来た2人に慌てて視界に入らないよう足音を殺して移動する。
大尉の鳴き声にはひやりとしたが何とかやり過ごし、そのまま暫く殺害の経緯を語る2人の言葉に耳を傾けると、再び暗闇になるのを自分の速い鼓動を聞きながらじっと待った。
「成る程、成り行き殺人だったって訳ね」
「とにかく高木刑事にこの事を…」
時間制限のある携帯で高木に電話するも繋がらず、警察は諦め博士に掛けるが間が悪かったらしく無情にも頼みの綱はそこで切れた。
「くそ…電池切れだ」
「じゃあもう一度温めれば…」
「完全に使い切ったらいくら温めても復活しねぇよ。オメーら、持ってる物を出してくれ!それで考えてみっから!」
一斉にポケットを漁り出す3人を横目に葵は気まずさから目を伏せコナンに足を向ける。
『ごめんね…わたしカイロしか持ってない…』
「いいのよ。私なんて何も持ってないわ」
「ああ、そっか!オメーはパン一だった…いって!」
カッと頬を染めた灰原に殴られた彼は頭を押さえている。ジト目で睨む彼女から視線を逸らすコナンに葵も額に手を当てた。
デリカシーという言葉もその膨大な知識の中に入れて欲しいものである。
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