第1章 前編 時の彼女と死の外科医
「抜糸の必要はねぇが、暫く仰向けで寝るなよ」
ローは治療が終わると、さっさと片付けて部屋を出ていこうとした。
これ以上ここにいて余計なことを考えたくなかったのだ。
「くっそ~終わってしまった。こんなことなら後5~6か所斬ってもらうべきだった」
「…何言ってんだ、馬鹿だろおまえ」
「っは!しまった心を声が!」
ローが扉に手をかけたとき聞こえてきたユーリの言葉に、思わず振り返って突っ込んでしまった。
視線の先にはいつの間に起き上がったのか、台の上に座ってこっちを見ているユーリがいた。
(あぁ、そうだ。あいつの髪色も目の色も何もかも、俺を惑わす)
ローは扉から手を離すとゆっくりユーリに近づいていった。
(こいつはあの人と違う。違うと分かってるのに、この胸のざわつきはなんだ?)
ユーリの前までたどり着くと、そのオレンジの瞳を見下ろした。
最初こそ笑顔だったユーリだが、ローが近づくにつれてだんだんと顔色が変わっていった。