第41章 ノミの先輩と隠れる後輩
「鋭児郎くん!環先輩のインターンシップ先って、ファットガムのところなんだって!」
「そうなんだな!ファットガムって…関西のほうのヒーローだったか?」
先輩の教室からの帰り道、廊下を二人で歩きながら来たるインターンシップに思いをはせる。
どんなことが待ち受けているのだろうか。
どれだけ強くなれるだろうか。
顔を上気させながら言うと、鋭児郎くんはいつもの大きな声で返してくれた。
「BMIヒーロー、ファットガムさん!個性の脂肪で敵をみーんな沈ませちゃうの!」
関西で有名なファットガム
強くて
重たくて
とっても大きい!
ワクワクしながらファットガムさんを思い浮かべると、鋭児郎くんは感心したような声を上げた。
「緑谷の陰に隠れて気づかなかったけど、安藤もなかなかヒーローオタクだよな。」
「えぇー!そうかな…」
鋭児郎くんのその言葉は、どこかこそばゆくて恥ずかしくて、頬が少し熱くなった。
「なんか、ちょっぴり…嬉しい。」
「ええっ」
「いひひ、なんてね!」
ヒーローに、夢にまっすぐ触れられるなんて嬉しくて。多分浮足立ってるんだと思う。
「きっと凄いよね!ファットガムさん!」
「…ああ。」
「鋭児郎くん?」
鋭児郎くんは、少し神妙な顔をしていた。
まっすぐ、何か決意したような。
「インターンシップで、俺たちはきっと変わる。」
「へ?」
「成長する。」
彼の言葉で、私の心はいっぱいになった。
どう変わっていくのかの不安と、どうなれるんだろうの期待が絵の具みたいに混じって溢れていく。
『俺たちはきっと変わる。』
胸が熱くて重くてうるさくなった。
私は、どうなれるんだろう。
「俺は、守れるようになりたい。大切なやつを。誰かのピンチを。」
そう真っ直ぐ告げる彼を見て、また頬が熱くなる。
「…かっこいいね。」
「へぇっ!?」
「あえ、えとえと、楽しみだね!えっと一緒に頑張ろう!」
「あっ、ああ!そうだな!」
彼はつり目を少し細めて太陽みたいに微笑んで見せた。
「安藤、よろしくな。」
「…うん、こちらこそよろしく。」
きっと大きく変わるであろうインターンシップは、こうして始まった。
この時の私は、大きな闇が蠢いていることも、新たな想いが芽生えていることも、知らなかった。