第30章 春と嘯いて
Side 切島鋭児郎
初めて出会った時は、こいつ、生きていくのに苦労しそうだなって思った。
『ほ、本日は!お日柄も良く!!また、お足元の悪い中!!』
『どっちだよ!』
焦りながら、吃りながら。
そんな挨拶は、誰が見ても不器用なヤツだってわかるもので。
そのあとの訓練でのあいつも、到底出来ることは無さそうで。
可哀想に…なんてどこかで思った。
でもあいつは、自分に出来ることを必死で探して、それでちゃんと役に立ってみせた。
ため息をついていたあいつも、誰かのために、大好きな誰かのために。ただひたすらに、自分に出来ることを広げようとしていた。
そんなふうに、誰かのことを一心に思っていた彼女が、かっこよかった。
もがいて、足掻いて、必死に世界を広げようとする彼女は輝いて見えた。
【ただ後悔のねぇ生き方。それが俺にとっての漢気よ!】
まっすぐまっすぐ前を見る。
そんなヒーローに、見えていた。
でも、安藤は、たくさん後悔を抱えていたのだ。
たくさんたくさん。あの小さな胸が、はちきれるくらい。
相澤先生の話を聞いたあとは、息ができなくて、それから、
そんな彼女の、そばにいたかったと思った。
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いても立ってもいられなかった俺は、話を聞いた次の日、外へ飛び出していた。
なにかしなければ。
そんな気持ちだけが昂って
自分にできるなにかをしたい。
そうじゃなくて、
自分は何がしたいか。
そうやって、どこかで聞いた言葉だけが、焦りを助長していく。
そうだ、アイツらなら。
“爆豪”ならば。
“緑谷”ならば。
なにかの手がかりになるかもしれない。
炎天直下の道を、ひたすらその曖昧な目標のために走り続けた。