第25章 VANISHING POINT、
走っていく出久くんの背中を、私はずっと見ていた。
森の中に、闇の中に、迷いなく走っていく姿を。
私もと歩を進めようとして、自分が震えていることに気がついた。
出久くんの周りには光が溢れている。
いつだってキラキラで。
きっと、どんなに深い闇の中でも彼なら大丈夫なんだろうなって、思う。
震える脚にムチを打ち、私は少しずつ進んだ。
行こう。
みんなのところへ。
みんながいる場所へ。
行っても、いいのかな。
分からないけれど、今は、私に出来ることは、“守られること”だけなのだから。
少しずつ駆け足になり、私は走りだした。
何も無いところでつまずき、すっ転んで膝に傷をつくりながら。泥まみれで、汚れながら。
先は見えないけれど。
どこがゴールで、何処を走っているのか、分からないけれど。
ただ、ひたすら走るしかなかった。
ガサガサっ
突然、木の葉が擦れ合う音がした。
誰かが、居る音がした。
何故だかその音だけが大きく聞こえ、私はバッと振り向く。
「いたな。」
「あー!ホントだ!どこだァ!?」
その声は、聞いたことない声だった。
低く、落ち着いた声と、この場に似合わない明るい声。
「安藤ひよこ。」
「迎えにきたぜっ!!お前が必要だ!オマエなんていらネェヨ!!」
ゾワゾワゾワと悪寒が背筋を通って頭まで登ってくる。
「お前は、」
落ち着いた声の方が言葉を繋いでいく。言葉ひとつひとつに、あぁ、この人絶対にヤバい人だなって思う声だった。絶対に、関わってはいけないような声。
私が守られるためには、安全にいるためには、最高に危険な因子。
「こちら側にいるべきだ。」
姿の見えない彼らから、私は走って逃げ出した。
「お前がそっちに居てなんになる。お前はこっちにいてやっと価値があるだろ。」
「おいおいそんな酷いこと言うなよ!お前優しいな!!」
走っているのになぜだかはっきり聞こえるその声に、吐き気がした。
「お前の“本当の居場所”はこっち側にある。」
なぜかその言葉に、足が止まった。
ほんの一瞬だったと思う。
でもその一瞬が決め手で。
ぐいと首のあたりを引っ張られたと思った瞬間、世界は半回転した。