第22章 must to be
「はーい!」
「あ、こんばんは光己さん。夜分にすみません。」
ガチャりと綺麗なドアが開いて若々しい女性が顔を出す。出てきたのは、勝己くんのお母さん、光己さんだった。
「あらひよこ!なになに?あ、わかった!またおすそ分けでしょ!」
「いやぁ、毎度毎度ごめなさい。」
「いいのいいの!私と花の仲よ!家これから晩ご飯だから助かるわ!」
花、とはおばさんの名前だ。
おばさんと光己さんは昔から結構仲がいいらしい。2人ともおしゃべりだから、気が合うのかな。
おずおずとタッパーをひとつそっと前に出すと、光己さんははつらつとした笑顔で受け取ってくれた。
勝己くんちはいつも綺麗で暖かい。
あっ、雰囲気がって意味。今は夏だからクーラー効いてて涼しい。たぶん、冷暖房完備の凄いやつ。
「今、勝己風呂入ってるからさ!どうする?出るまで待ってる?」
「いや、勝己くんに用があったわけじゃ」
「ひよちゃん!こんばんは」
「あ、勝さん!こんばんは。」
そんなふうに玄関先でおしゃべりしていると、奥の部屋からひょこりと男の人が顔を出した。
勝己くんのお父さん、勝さんだ。
勝己くんと違って凄く穏やかで優しい。
小さい時から勝さんにはよく懐いていた。
優しかったから。あの雰囲気を、思い出して。
「ちょっと手伝ってくれない?録画の仕方がわかんなくって。」
「録画?」
「いつも勝己にやってもらってんだけどね、今風呂だからさ。丁度いいし、ひよちゃんやってくれない?」
「うん。任せてください!」
勝己くん今お風呂だし(危険は無いし)、勝さんの頼みだ。受けないわけにはいかない。
「お邪魔します。」
靴を揃えて中に入る。
腕の中にはまだ、暖かいタッパーがあったのを、少しの間だけ忘れた。