第14章 青くさい春。
「あっ、反応した。」
「いや、下の名前呼ばれてはっとしちゃって。あんま呼ばれないし…。てかよく覚えてたね。俺の名前。」
下の名前を呼んだことにとても驚いたようで……。
「わかるー、安藤の名前の呼び方ビックリするよなぁ。」
「えっ、でん……上鳴くん!嫌だった?」
「全然!!寧ろいい!でさ、それ、なんか理由とかあんの?」
初めてそれ、聞かれた。理由は、その、少し恥ずかしいのだが…。
「えっと、家、子供が多くていっつも沢山の子たちと関わってたし、中学の時なんて友達ほぼ居なかったから、子どもと関わることばっか慣れちゃって……。ほら、子供って名前で呼ぶでしょ?それに、その……も、もっと仲良くなれたらなっていう、願掛けでもあって……あっ。」
『えっ?名前、』
『いいっていいって!いいよそのままで!』
なんで、なんで彼のこと…思い出すの?
彼を下の名前ではじめて呼んだときのことを思い出してしまった。何でもかんでもアレ、アノコトと結びついて頭がごちゃごちゃになる。それが、すごく嫌になる。
そんな気持ちもお構い無しに私の頬は紅潮し、私は必死にほっぺたをおさえて紅くなるのをとめようとした。
ちらっとみんなを見てみると、なんだかみんな暖かい目でこちらをみている…。生暖かい……。
突然あたまを誰かに撫でられた。……響香ちゃん?
「?」
「そんな理由だったんだ。安藤って健気ね。よしよし!可愛い可愛い!」
「そういうことなら、俺も下の名前で呼んでよ。」
「じゃあ俺も!」
「えっ……じゃあもっと仲良くなれる…?!嬉しい!ありがとう!ましらおくん範太くん!」
「おぉ…。改めて呼ばれるとなんか新鮮だな…!」
「あっそうだましらおくん、ここ、教えて欲しくって…」
「あぁ、そこ?そこはねぇ……。」
みんなで教え合うのもいいし、なかよくなれたのも嬉しいし……私がこの勉強会で得たものは計り知れなかった。
でも、あのコトがどうしてもときどき頭を回って、そのたびに私は頭をブンブン振った。