Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「どうやら、図星のようじゃな」
「……まだ何も言ってねぇだろうが」
勝手に決めつけるピクシスに苛立ちが募り、リヴァイは小さく舌打ちを鳴らす。
彼の笑みが鬱陶しくて仕方が無い。
「その様子だと、恋は初めてのようじゃのう」
「おい、だからこれが恋だと決まったわけじゃないだろう」
そう、あくまで可能性の一つ、だと思いたい。
この感情の正体を何故だかまだ認められない自分がいた。
それは、他人に気付かされたからかもしれない。
ちゃんと自分で、もう一度この感情の正体を突き止めたいと思った。
そのためには、エミリと接触しなければならない訳だが……そんなチャンスは現れるのだろうか。
「相変わらず素直じゃないな、お主は」
「リヴァイが素直だと少々気持ち悪い気もしますが」
「おい、てめぇらいい加減にしろよ」
言いたい放題な二人を睨みつけるが、残念ながらエルヴィンにもピクシスにもリヴァイの睨みは全く効果がないため意味が無い。
「じゃが、意外だったな。まさか、リヴァイの好みがああいうタイプだったとは」
「でもまあ、確かにエミリは少し変わった所がありますね」
「ほう。その話もなかなか興味をそそられる」
勝手に会話を進める二人に、ツッコミを入れるのも面倒になったリヴァイは、彼らの話を聞き流すことにした。
もう一度エミリの方を見てみれば、楽しそうに笑っている。
そして、何度も思う。
あの笑顔を見ているととても心が落ち着く。
……エミリが好きなのだろうか。
これが本当に恋なら、リヴァイにとって初めての経験だから分からない。
確かにエミリは大切で特別な存在だ。
守りたいと思うし、ずっとそばにいてやりたいと思う。
待て、そう思う気持ちが恋なのだろうか……?
(クソ……全然わからねぇ……)
どこからどこまでの感情が恋と呼ぶのか、今のリヴァイにはさっぱりだ。
決定的な何かが無ければ、これを恋だと受け入れることはできない。
今までにもそんな事はあったのかもしれないが、正体が分からない情態だった。
この感情を恋だと提示された今からなら、もしかしたら分かるかもしれない。
いつ、エミリと接触しようか。
リヴァイは一人考えながら店までの道のりを歩いていた。