第13章 説得と決意
「ただいまー。」
私はそういってリビングへの扉を勢いよく開ける。
「お、おかえり。飯食ったか?」
するとそこにはスーツのジャケットだけを脱ぎ、腰巻きのエプロンをした裕がキッチンに立っていた。
「ううん、食べてないよ。何か作ってるの?」
「あぁ。一緒に食べるか?」
「うん!ありがとう。」
そんないたって日常的な会話をしながら私は冷蔵庫からビールを2本取り出す。
「今日は退社してからどこかいってたのか?」
そう聞かれ、私は
「うん、お父さんから連絡があって。少しだけファミレスで話してたの。」
と答えた。
するとそれまで普通だった裕が少しだけ会社にいるときと同じキリッとした表情になった。
「もうそろそろ、お前のご両親にも挨拶行かないとな。」
今までそんなこと言われたこともなかったし、凄く嬉しかった。
裕のお父さんとお母さんが来たときも何のためらいもなく、私を紹介してくれたことが嬉しかったのをよく覚えている。
けれどそれよりももっと嬉しくてたまらなくて。
思わず後ろから抱きついた。
「うん、ありがとう。」
「!?急にビックリさせるな…はぁ…って焦げてる!」
「え!?」
そうわたわたしながらも、こうしていられることが嬉しかった。
なんとかご飯をさらに盛り付けて私達は席に座る。
「「いただきます。」」
そのご飯は凄く美味しく感じた。
焦げているはずなのに。
苦いはずなのに。
けれど、この時の私達はまだ知らない。
次の日、とんでもないことが起きると言うことを。