愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
翔side
智の言う確かめたいことっていうのは、恐らく澤が父様を刺した理由なんだろう。
それはおれも同じだった。
宴の前にわざわざ部屋を訪ねてきた澤が残した言葉が、ずっと気になっていた。
『私は…自分だけそんな幸せな夢ばかりを見て…、その陰で悲しみの涙を流していた方のことを忘れていました…』
辛そうな表情を浮かべて、懺悔するように話した澤。
幼い頃の智を知っているとも言っていた。
もしかしたら成長した智が兄さんの部屋に囚われている間、その世話をしているうちに、彼が大野伯爵の忘れ形見だって気が付いたのかもしれない。
でも何故…
そのことで澤が父様に刃を向けなきゃならなかったんだろう。
誰もその理由を知らない。
「…わかったよ。おれも…澤に聞きたいことがある」
決意を秘めた智の瞳にそう告げる。
そして抱いていた腕を解くと、
「おいで…?一緒に行こう」
片手を差し出した。
「一緒に…、行ってくれるの…?」
少し困惑したような声を出した智は、おれの手を取るのを躊躇った。
「勿論、一緒にいるって言ったでしょう?」
「でもそんなところを潤様に見られでもしたら、ただじゃ済まなくなる。翔君にもしもの事があったら、僕…」
「大丈夫だよ…、信じられないかもしれないけど、おれにとっては優しい兄さんなんだ。心配しないで?」
それに…今は誰もが混乱してる。
松本の長子、次期当主である兄さんはそれどころじゃない筈だもの。
澤と話をする機会は今しかない。
「だから…おれと一緒に、ね?」
「えっ、待って…」
おれは躊躇う智の手を掴むと、外へ…
混乱の最中へと出て行った。
階段を駆け降りると、制服姿の物々しい男達が出入りする広間の方に背を向け、使用人達が寝起きする部屋のある方へと急ぐ。
早くしなきゃ…
あの男達に連れていかれたら、澤と話しをすることができなくなるかもしれない。