第22章 『衝動』
「蓮、お待たせ」
スッと襖が開き、盆を持った姉と伊達が顔を覗かせる。
元の居場所に座り直した私は平然を装い、卓上に頬杖をついて怠そうに二人を一瞥してみた。
二人が戻ってくる気配を察知した時点で既に手から離していた照月は、伊達の姿を見るや否や嬉しげに駆け寄っていく。
「待たせたな照月〜。存分に遊んで貰ったか?」
小さな頭をわしわしと撫でる手つきと眼差しは慈しみに溢れていてーーー
くそっ、私だってもっと触りたいのに!と、悔し紛れに下唇を噛んでいたのだけれど………
………
……………!?
ーーー数秒空けて気付いた。
今……聞き捨てならぬ台詞が………
動揺が走り硬直していると、意味有りげにニヤリとする伊達と視線がかち合う。
「……はぁ?遊んでないし。
この私が動物なんか相手に………下らない」
フンと鼻で笑ってみせたものの。
途端、
それよりも何倍もの笑いーーーいや、爆笑が返ってきた。
「っくく、すげぇ高飛車な物言い………好きな癖して………はははっ」
「なっ……なんのことかサッパリなんだけど!」
「ははっ、まだシラを切る気かお前は……とぼけても無駄だ。ほれ、そこ」
腰を折り曲げ腹を抱えて笑い倒す伊達が指差す先にはーーー
胸や腕、太腿に至るまで……照月の毛があちこちに付着した私の身体。
黒地の着物のせいか、それはやたら派手に目立っていた。
・・・・・
ああああ!!しまった………
盲点だった………!!
動かぬ証拠を指摘され、
恥ずかしさで顔面が急激に熱くなってくる。
畜生、こんな筈じゃーーー
伊達の愉快な笑い声が響くなか、わなわなと肩を震わせていると「ごめんね、私が先にバラしちゃったの」なんて、姉が追い打ちをかけてきて………
込み上げる羞恥心は、最高潮に膨らんでいたのだった。