第44章 アバウトミー
「表にスモークを貼った車を用意している。
爆豪と、轟、物間も呼んでこい。学校に戻るぞ」
『………』
何も言わぬ寧々の代わりに、母親は返事をすると、三人の教師に付いて、部屋から出て行った。
部屋に1人残された寧々は
冷たくなった紅茶にうつる自分自身を
ぼんやりと見つめながら、これが悪い夢でありますようにと願う。
「…でも、残念なことに夢じゃないよ」
『……アラタ』
「あれ?泣いてないね。
てっきり大泣きしてると思って持って来たのにな」
アラタは優しく笑いながらティッシュの箱を持ち上げる。
『泣いてないよ』
寧々は答えながら、また紅茶に視線を落とした。
「……どうするんだ?」
アラタの問いかけに、寧々はゆっくりと首を振る。
『わかんない』
「そっか…そうだよね」
『…アラタも驚いたでしょ?』
「……あぁ。驚いたよ」
アラタがそう言うと、寧々は『嘘、驚いてない』と言った。
『もしかして、私の個性…知ってたの?』
「うん」
『いつから?』
「んーたぶん…小3?」
そんな前から…と寧々は肩を落とした。
『幻滅…するよね』
「しないよ。
だって俺もヒーローになりたくないもん」
アラタの言葉に寧々は大きく目を開く。
自分がどうやっても言えない言葉をやすやすと言って、その上大したことを言ってなさげに飄々としているアラタ。
『…え?』
「え?ヒーローなりたくないんじゃないの?寧々も」
『え…っと…うん…そう、そうだけど…』
「だよな?ヒーローとか絶対無理。寧々以外の女の子に命かける意味がわかんない」
両手を広げ、外国風なオーバーリアクションで言うアラタ。
寧々はそんな彼を、未だ信じられない、といった目で凝視した。