第73章 ♑瞳を閉じても②（赤葦京治）完結

「…大丈夫ですよ
戻るだけです
ただの後輩に
あの日あの部屋に
貴女を呼び出す前に
戻るだけですから…」

こんな顔させといて
まだ、待てなんて言えないよ

「頭冷やして帰りますから
追いかけてきちゃ駄目ですよ
木兎さん…失礼します」

パタリと閉まる部屋の扉が
何かの終わりを告げたようで
勢いよく涙がこぼれる

「姫凪…」

『ごめん、光太郎…
今日は一人にして
光太郎の気持ちは嬉しいけど
私ヤッパリ…戻れないから
これ以上…優しくしないで…』

失ってからじゃ遅い
そんなの当たり前で
今更だって思うけど
気付いちゃったら
他の人を頼れない

「そんなに赤葦が好き？」

『うん…京治が好き…』

「俺じゃダメなのかよ」

『…光太郎より、京治が好き…』

一人で立ち上がって
京治を追いかけないと
何を言っても
心になんか届かないよ、ね？

光太郎の胸を押し返し

『これ、返すね。
昨日はありがとう…
もう、一人では行かない』

転がった鍵を返す