第72章 ♑瞳を閉じても(赤葦京治)
「…関係ないでしょう
選んだ理由なんか
他人の貴方に…」
なんで?
なんで…だ?
「知りたいんだよね
姫凪ちゃんの事
キミを選んだ理由が分かれば
俺にもチャンスあるかもじゃん」
チャンスなんかあるわけない
あるわけない…よな?
どうしたんだ、俺は。
"なにをバカな事を"
いつもの俺なら
そう言って軽くあしらって
気にも止めないはずなのに
「…ごめんごめん
苛めるつもりはなかったんだ
幸せそうな二人が羨ましくて
意地悪しちゃっただけ。
気にしないでよ
姫凪ちゃんとは
そうそう会う事もないし、ね」
「…当たり前…でしょう
すいません、急いでるので」
胸の中で不安が暴れて
苦しくて堪らない
アキラさんに背を向け
とりあえず一人になれる
静かな場所を探し
ネットカフェに飛び込む
板で仕切られただけの
薄暗いブースだけど
そこは静かで閉鎖的で
上がった息は落ち着いてきたけど
胸はまだ詰まったまんまで
上手く肺に脳に
空気が送られて行かない