第11章 声
夢を見た。
暗く黒い怖い夢。
両親も
友人も
近所のおばちゃんも
皆無機質のように表情を亡くしていて。
みんなみんな能面のように同じ顔で。
暗い夜。漆黒の闇。
響く鐘。
鳴り止まない雷。
地を滑る水。
灯りのつかない家。
誰一人いない道。
そこをひたすら走って走って。
立ち止まれば捕まる気がして。ひたすらにひたすらに走って。
あの姿を探して。
「バージル…っ!」
家が傾く。街灯が熔ける。
看板の文字は消えドアの取っ手は砂と化し。
空は雲も星もなく風は凪ぎ空気は止まり。
全てが無に帰し。
孤独に浸り。
染みて渡って。
やっと見つけたバージルの姿。崩れゆく建物を呆然と眺める背中。
あぁ、よかった。私だけじゃなかった。
バージルがいれば大丈夫。触れて確かめれば大丈夫。
抱きつこうと、彼の背中に伸ばされた腕は。
するりと空気のように彼を抜けた。